スタイリストとして幅広くファッション業界で活躍している工藤満美さんは、ひとたびランニングシューズを履けば仕事先から自宅まで30kmの距離も走って移動してしまう、ランニング歴約20年のランナー。たまたま誘われて飛び込んだランニングの世界が、彼女の生き方を変えた。

始まりはホノルルマラソンから
ラン二ング歴約20年、ここ数年はもっぱらウルトラマラソンやトレイルラン二ングに夢中という、自他共に認めるランナー工藤満美さん。彼女が走り始めたきっかけは、意外にも「たまたまホノルルマラソンに誘われたから」だ。
「当時通っていたジムの仲間に誘われたのですが、実はそれまでホノルルマラソンって芸能人しか出られないと思っていたんです(笑)。ランニングの知識も無くて、最初はエアロビクスのシューズで走っていました」

もともと学生時代はスポーツをしていたが、スタイリストのアシスタントとして働き始めた頃は時間にも気持ちにも余裕がなく、スポーツとは無縁の生活だった。
「朝まで飲むこともよくあったし、食事にもあまり気を使っていませんでしたね」
一方で、仕事で接するモデルの方の多くは、体を鍛えていることで内面にも芯の通った美しさのようなものを持っており、その姿から刺激を受けていた。

そんな思いもあり、スタイリストとして独り立ちした20代後半に通い始めたのがスポーツジムだった。 そこで仲間が増え、2002年のホノルルマラソンに誘ってもらったことで新たな扉が開けた。

「部活で走らされた記憶が根強く、長距離を走ることには苦手意識もあったのですが、『ハワイで走った』と言えたらかっこいいなあと思い、憧れの気持ちからチャレンジすることにしました。 人生初のフルマラソンは歩くのも精一杯、終わったあとはまさに精根尽き果てた、という感じでした。 なのに、もっとこうすれば良かった、もっと走れたんじゃないか、といつの間にか反省モードに入っていて(笑)。 気づいたら”次“を目指していたんです。 今でも、走っては反省、走っては反省、、、この繰り返しで走り続けているのかもしれません」

走る楽しみは新たなステージへ
その後もジムの仲間と定期的にレースに出るようになり、数年の間にすっかりランニングが習慣化、目標タイムも達成した。 ただ、走れるようになったがゆえにタイムを気にして追い込むようになってしまい、純粋に走ることを楽しめていないと感じることも多かった。

そんな時に目の前の景色を変えてくれたのが、トレイルランニングだった。 岩があったり滑りやすい斜面があったりとロードとは別のハードさはあったが、タイムを忘れ、自然を感じることや自分がいかに気持ちよく走るかを大事にできるようになり、走ることそのものが楽しく感じられた。

そして初のホノルルマラソンから10年、40歳の節目の思い出づくりとして再び大きなチャレンジをする。 「チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン」で100kmという距離に挑んだのだ。 このとてつもない距離を完走できたら、もう走ることには満足するのではと思っていた。
「でも終わってみたら、逆に『まだまだいけるな』と思って。 ゴールだと思っていたら、新たな始まりでした」

それ以来、エントリーするレースは主に、山と距離を兼ね備えた“ウルトラトレイルランニング”の大会になった。 これまでに完走した最長レースは約160km のUTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ)で、今年もエントリー済みだ。

工藤さんいわく、フルマラソンよりむしろ山での160kmのほうが気分的に楽しめるのだとか!

「フルマラソンは、タイムを1分でも1秒でも削るというような緊張感があり、体調管理にもナーバスになりますが、数日かかる過酷なトレランの大会前は、かえって細かいことは気にしません。 一つとして同じでないコースは出会える景色のバリエーションも豊富で、『どうなるんだろう』というワクワク感でいっぱいになるんです」

また、山という環境はスタッフやボランティアの人にとっても大変なだけに、ランナーとスタッフの距離感が近く、皆が一体となって良い大会にしようという思いが感じられるところも魅力なのだそう。

「ランニングがなぜ良いかって? 朝まで語りましょうか(笑)」
ホノルルマラソンへの憧れから始まったランニングは、いつしか工藤さんの生活をすっかり変え、そして支えるものとなった。その良さを挙げたらきりがない。

スタイリストの仕事は見た目以上に体力勝負で、重い荷物を持ちながら複数の現場を渡り歩くこともあるが、走ることで体力がつき、より精力的に仕事に向かえるようになった。
また、自らがランナーであることでスポーツウェアへの理解も深まり、スポーツシーンでのスタイリングの機会も増えて仕事の幅が広がった。

食生活も激変した。
と言っても厳しく管理しているのではなく、むしろ走っているおかげで好きなものを我慢せず食べられ、お酒も飲める。
より食べ物の美味しさを感じられるようになり、最近は家庭菜園で野菜を育てる楽しみも覚えた。

何より、性格や生き方にも大きな影響を受けた。
余分なものが削ぎ落とされる感覚が生まれ、シンプルな生き方ができるようになった。
人と自分を比べることがなくなり、自分自身が心地良くいることが大切だと思うようになった。
そして自分に自信やゆとりが生まれた結果、人とも良い関係を築けるようになったと感じている。

おばあちゃんになるまで続けたい
工藤さん宅のシューズクローゼットには、スタイリッシュな靴と共にランニングシューズがずらりと並んでいる。

トレイルランニングをするようになって出会ったのがHOKA ONE ONEのシューズだ。 長く走っても翌日の足のダメージが少ないなど相性の良さを感じ、ロードでもすっかり定番になった。 現在は9足所有していて、ランの強度、走るコースの状況や自分の足の調子、そのレースをどう走りたいか、などによって履き分けているそうだ。 また普段のファッションにも取り入れており、たくさん歩く仕事のロケ現場などでも活躍している。

工藤さんはこの先どんなランニングライフを送っていくのだろう。

「この20年で、ランナーとして憧れや目標となるレースには一通り出た、という気持ちはあります。 今後は国内でまだ行ったことのない山という山を登ってみたいですね。 一つとして同じトレイルはないので、この先おばあちゃんになるまで楽しめたらと思っています」

もちろん体力作りや山を走るためのトレーニングとして、日常的にロードを走ることも続けたいと言う。

予定では久しぶりに3月末に115kmのロードレースが控えているが、「なかなか日常で長距離練習をするのが難しいので、先日は仕事先の都内から埼玉の自宅まで33キロほどの距離を走って帰りました。 信じられない!と驚かれますが、新しいお店を発見したりしながら走ると楽しいですよ」

「レースはあれば楽しいし、なくてもいい。 でも、いつレースに出ることになってもスタートラインに立てる体作りをしているつもりです」
そんな工藤さんにはいつか走ってみたい大会があるそうだ。
「サハラマラソンです。スイーパー(最後尾)としてラクダが追いかけてくるらしくて(笑)」
これだけ聞いたら何やら楽しそうだが、とんでもない、モロッコ南部のサハラ砂漠を7日間で約230km〜250kmを走る、“世界一過酷”と称されることも多いレースだ。
でも、工藤さんならその「いつか」はそう遠くないうちにやってくるかもしれない。

工藤さんの着用シューズ:MACH 4ENERGY PACK

【プロフィール】
工藤満美(くどう・まみ)
ファッションスタイリスト/着物スタイリスト/PEAFOWLTOKYO代表/RunGirl(一般社団法人ランガール)理事
女性誌、ウェブ媒体でのスタイリストとして直感的な感性を活かし幅広くファッション業界に携わる。ランニングとフィットネスが趣味であることからスポーツシーンのスタイリングでも注目されている。着物を広めるenso Japanのメンバーとしても活動中。
趣味のトレイルランニングでは、ハセツネ、FTR100、信越五岳、UTMFなどウルトラトレイルレースの完走経験も豊富。
枠にとらわれないジャンルで幅広く活動している姿は度々メディアでも紹介されている。
Instagram: @mamikudo
     

写真:青木郁(あおき・かおる)
取材・文:柴田玲(しばた・れい)